植本一子の短縮営業中・さびしさについて(2024/1/19)
2月に筑摩書房から『さびしさについて』という文庫が出ます。滝口悠生さんとの共著で、2022年に自費出版で出した『往復書簡 ひとりになること 花をおくるよ』の改題になります。この本については私のInstagramに書いたのでこちらをご覧ください。目次も載せました。
自費出版からの文庫化というのは珍しいようで、ブック・コーディネーターの内沼さんがXで言及してくださっています。
自費出版から商業出版=単行本化というのはよくあることで、私の『かなわない』なんかもそうなのですが、いきなり文庫化というのが珍しいことは、自分でも気づいていませんでした。(余談ですが、夏に文庫化の話を某Nナロク社のM井さんにしたところ「えぇ!?なにそれ!めちゃくちゃかっこいいですね!!!」と驚かれ、ハッとしたのは覚えています)文庫化の話は昨年の夏前からあり、きっかけとしては朝日新聞の「折々のことば」に3日連続で取り上げられたことでした。すでに絶版状態だったのでpdf化し、石田商店でネット販売を始めました。
これが正直あまり売れず、やっぱり本として出すべきと思い、増刷することも考えたのですが、自分の中の自費出版の限界を色んな意味で感じており、となるとやはり商業出版で出し直したい。その時に『愛は時間がかかる』の出版で並走していた筑摩書房の編集者・柴山さんに声をかけ、文庫化することが決まり、数ヶ月かけて追加の書簡と、加筆修正をしていたのでした。
簡単に話すと出版の経緯はそんな感じですが、まあなんといっても私が本当につらかった時期に追加の書簡のやりとりがあり、苦しみをひねりだすように、一文字一文字書いていった記憶があります。とても大変な時期だったけれど、だからこそ書けた文章というのがそこにあって、書くことであの時期を乗り越えたのだとも思います。滝口さんと柴山さんも一緒になって前に進んでくれた。だから私にとってはとても大事な一冊になりました。自費出版のものとは、もはや別物と思っています。『こころはひとりぼっち』が川なら、『さびしさについて』は海。姉妹本ともいえます。ぜひ併読してもらいたいです。
あの時期、こんなレコメンドがあったのも、文庫化の追い風になったかと。
文庫版の装丁は『愛は時間がかかる』『長い一日』の佐々木暁さん。装画はO JUNさんです。
滝口さん的には「さびしさと愛おしさが100年後に出会ったようなカバーデザイン」、柴山さんは「絶妙というか挑戦というか、すごく好きなカバーになりました」とのこと(いずれもXから)。私も、見れば見るほど好きになる表紙だなと。
O JUNさんの作品を装丁に使わせてもらうのは『ひとりになること〜』から引き続きなのですが、今回使わせてもらった絵は、私が自費出版の装画を頼む時に、O JUNさんの個展を見にいき、ご本人に「これいいですね」と軽くお伝えしたものでした。結局装丁に使われることはなかったのですが、私が気に入っているのを覚えてくださっていて、3年越しに贈り物として届いたのが昨年の秋ごろ。そろそろ今回の装丁をどうするか決めよう、という時期だったので、この絵のことを各位に話したところ、ではこれで、となったのでした。すごいタイミング!ちなみに佐々木さんの指示により、スキャンではなく私が絵の撮影をしております。O JUNさんには解説もお願いして、素晴らしい原稿をいただきました。必読!というわけで近所の本屋さんで要予約!お願いいたします。
植本単体ですが、3月の初旬に大阪でトークイベントを2件計画中です。また決まり次第お知らせいたします。滝口さんとのトークもどこかで出来ればと思っています。
これにて植本的悲しみの別れ三部作(『一緒に生きていこうぜ』(文學界2023年9月号)、『ウィークリーウエモトvol.2 きょうも誰かを待っている』&『こころはひとりぼっち』、『さびしさについて』)はおそらく完結です。なぜならすでに前に進んでいると自分で思えるからです。
年明け早々胸のいたむニュースが多いですが、自分にできることをコツコツと積み重ねていきたいと思います。みなさんも身体に気をつけてお過ごしください。
装丁・佐々木暁 装画・O JUN
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